第111回木村 博昭×陶器 浩一
タイトル |
第111回アーキテクツサロン 木村博昭×陶器浩一 「スチールシートの建築」 |
日時 |
2016年8月5日(金) |
会場 |
こうべまちづくり会館 2階ホール |
第111回アーキテクツサロンは京都工芸繊維大学大学院教授の木村博昭氏に,Hon.FRSA英国王立スコットランド名誉建築家称号記念講演として「スチールシートの建築」というテーマで講演いただき,その後「スチールシート建築の可能性」というテーマで構造家であり建築家としての顔を持つ滋賀県立大学教授の陶器浩一氏と対談いただきました.
まずは英国王立スコットランド名誉建築家の称号を得られた経緯と,グラスゴーで学んでこられたことをご説明いただきました.
そして,「都市」「混成」「未完」「記憶」「近未来」「機械」の6つのキーワードを提示され,それぞれに対する木村氏の考え方を述べられました.その中でも19世紀当時の産業革命の鉄という材料によってできた機械によって栄えたグラスゴーという場所でマッキントッシュの建築を学んだことや,船や車などの外皮に応力を負担させるモノコック構造が建築にも技術的にはあてはめられること,鉄という材料が組積造の建物のファサードに取り付けられた「ル・パリジャン新聞社」や木造に金という金属を張りつけた「金閣寺」などの建築と金属の関係性などの考察が「スチールシートの建築」に大きな影響を与えているということでした.そして,実作の設計にあたってその図面を参考にしたのは,村野藤吾のプランタン心斎橋の外壁とスチールサッシュが一体となったファサードということでした.
その後,自邸でもある「3in1 HOUSE(1994)」にはじまり,「鉄の教会(2006)」や「京都工芸繊維大学60周年記念館(2010)」などの設計された作品をご紹介いただきました.
スチールシートの性質と室内温熱環境,運搬と接合部の考え方,建築的な納まりなどが年代を経るごとに,経験や現場の職人さんや施工会社とのやり取りの中で洗練されていく様子を丁寧にご説明いただき,建築設計に携わるものとすればとても技術的で興味深く楽しいお話をしていただきました.
そして,対談では進行役として前地域会長の八木康行氏も加わり陶器氏が携わられた建築の紹介をいただき,意匠と構造それぞれの視点からの「スチールシートの建築」の考え方をさらに掘り下げてうかがうことができました.
その中でも陶器氏との対談の中での木村氏の「鉄も石(鉄鉱石)からできた組積造である」という言葉が非常に興味深く,キーワード部分で語られた「ル・パリジャン新聞社」の鉄のファサードと石の構造躯体の関係が,現代では一体化されてそのまま表現につなげることができるということでした.
このスタイルが,実はマッキントッシュの建築の表裏を入れ替えるように表現できたのが「京都工芸繊維大学60周年記念館(2010)」だという種明かしによって「都市」「混成」「未完」「記憶」「近未来」「機械」という6つのキーワードを念頭に設計を進めてこられた木村流の設計作法と的確に結びついて達成できた一つの到達点であることが分かったように思われます.
非常に玄人好みではありますが,とても興味深い講演会になったと思います.また,懇親会ではよりディープな内容にまで触れていて,ここで書けないのは残念ですがさらに理解が深まった楽しい会となりました.
(山﨑康弘)