第110回木下昌大x西澤明洋
タイトル |
第110回アーキテクツサロン 木下昌大x西澤明洋 「建築とブランディングデザイン」 |
日時 |
2016年01月22日(金)18:00〜20:30(17:30開場) |
会場 |
神戸まちづくり会館 2階ホール |
第110回アーキテクツサロン
今回、「技×技シリーズ」第2弾では、建築家の木下昌大氏と、ブランディングデザイナーの西澤明洋氏をお迎えし「建築とブランディングデザイン」をテーマに開催されました。
第1部では、お二方、それぞれの立場からのレクチャーとなりました。
木下氏は、建築そのものを、behavior(行為)、object(物体)、inside(内部)、outside(外部)を軸に問い直し、「最適化する建築」と表された。また、最適化のためのフローとして、与件の回収から始まり、最後に与件に合わせて原型を変形するところまでの手法を示された。ここまで、クライアントに寄り添った設計指針かと思われた話は序章であって、徐々にブランディングと関わる建築のあり方へとレクチャーが進んで行きました。
1つの案件に対し、設計~施工監理以前の段階となる企画~調査では、案件の方向付けや、資産資金の裏付け作業があり、そこにブランディングデザイナーや不動産コンサルト等のプロフェッショナルを必要とする。また、以後の段階となる建築物の運用や維持管理にとっては、不動産管理者等である。包括的にそれら一連に携わること、すなわち建築家の職能範囲を広げる意義を話された。既にハウスメーカー等で行われるべくして、クライアントの立場であれば、当然であると。また「以前、以後に関わることで、設計の自由度が増す。」とのこと。
この様に協働の範囲を広げることにより、設計の巾を広げる仕組みが、「最適化のフロー」にとっての骨子であると説かれた。
西澤氏はブランディングデザイナーのパイオニアと自負される。ブランディングとは何かを、非常に分かりやすくレクチャーされた。
「良い物があるのに売れない。」「良い物があるのに売るアイデアが無い。」この場合のブランディング。それと、おおよそ逆の場合のマーケティングとは異なると。ブランディングは、「伝言ゲーム」のためであり、広く遠くへ伝えるために確度を上げることが大事と説かれた。利点であっても、あれもこれもでは確度が落ちる。そこで、対象が他の競合したものと、どの様に違うかをリサーチ、プラン、コンセプト、デザインのサイクルの中でフォーカスし、差別化を行うとのこと。また、それに必要な条件として、トップの熱い想い、良いモノ、プロフェッショナルチームを挙げられた。
あまりの端的さに、私自身、気後れしている最中「良い物でないとブランディングしない。」と言い切られた途端、話に引き込まれた印象でした。前述のサイクルを用いた、具体的な仕事のメソッドをネタばらししていただいたところで、第2部へと進んで行きました。
第2部では、実際のお二方の協働プロジェクトについてのトークセッションとなりました。
1つめは、ロングライフリフォーム、デザイナーズリフォーム、ポイントリフォームと提唱された内の、デザイナーズリフォームについて。いわゆるPDCAサイクルの手前にI=Home inspection(住宅診断)を付帯しながら、建築家の職能範囲を広げて行った事例として紹介された。
2つめは、プロパンガス販売会社のブランディングと、それに伴った建築について。
まず、西澤氏から、プロパンガス販売の業界事情を初め、クライアントの熱い想いなどを元始にブランドが構築されて行くすべが語られた。それは、CI計画と実行、広告媒体のデザイン、要求された建築へと進んで行くフローに木下氏が関わり、ブランディングと「最適化する建築」との調和について実例を示し述べられた。そして、ブランディングからアウトプットされた建築が、的確なデザインの元、広告塔としての役割も果たし、ブランディングとのシナジーを生む成功例となっていました。
言葉を選び安心感のある論法の木下氏と、時に会場中を飲み込んでしまう様な語り口の西澤氏でありましたが、同窓で建築を学ばれたお二方とのこと、充実したレクチャーと、屈託のないトークセッションで、予定時間を上回る、あっと言う間の2時間半となりました。
(久保田 淳司)