第106回山梨知彦氏(日建設計執行役員) 大谷弘明氏(日建設計執行役員)
タイトル |
第一部 「近作を通して考えたこと」 第二部「個と組織の狭間で」 |
日時 |
2013年8月9日(金)18:00~20:30 |
会場 |
こうべまちづくり会館 2階ホール |
第106回アーキテクツサロン「建築家の系譜シリーズ」の第8弾として,日建設計執行役員の山梨知彦氏をお招きして,「近作を通して考えたこと」というテーマで講演いただきました.
第一部ではご自身の作品写真を提示いただきながら建築に対する思いを語っていただき,第二部では同期入社という関係の日建設計執行役員の大谷弘明氏の交え,JIA兵庫地域会会長の八木康行がモデレーターとしてお二人の設計スタンスを「個と組織の狭間で」というテーマで語っていただきました.
冒頭,山梨氏は建築とは構造・環境・技術・経済性などの多くの側面を統合してつくられ,評価されるものだと語られました.まずその話をきいてもすぐにピンとこないのですが,それぞれの作品についての話を聞いていくとその意味が少しずつ明らかになってきます.
まずは,「木材会館」について木材やコンクリートの経年劣化による意匠の変化を敢えて良とした意匠,事務所ビルへのバルコニーの設置の理由,木材プレカットという大量生産の技術を経済性も考慮した上で,コンピュータによって一品生産の美学へ昇華させるなど,同業の技術屋が聞けば,面白くないはずがない話をテンポ良く語られていきました.次に,「ホキ美術館」のクライアントの展示意図を建築で体現し,そこにはBIMという技術が織り込まれていること,「ソニーシティ大崎」では雨水を再利用して,素焼き陶器の透水管を使用した,周辺環境への配慮した冷却システムを外装材に導入するという,利己的ではなく利他的という提案でクライアントを説得し,それがプランやBIMを利用した植栽計画にまで至っていて,聞いていてどんどん山梨氏の世界に引き込まれていく楽しい講演でした.
第二部では大谷氏を交えてさらに興味深いお話を聞くことができました.
まず,なぜ日建設計に就職された理由というのが面白く,山梨氏はロック→エリック・クラプトン→アートスクールという構図から,芸大に入って,いつの間にか建築へ変わっていき,林昌二の新聞記事に感動してという経緯に対して,大谷氏はクラッシック音楽,吉田五十八の作品集,宮脇檀の作品集に出会い,芸大に行き,スカッとしているものが好きだったということと,研究室の推薦で誰か受けないかと言われて,入社されたという意外なお話で会場は盛り上がりました.まだまだ,興味深いお二人の話がたくさんありましたが,建築というものの評価とあり方を考えさせられたエピソードを二つ抜粋させていただきます.
まず,山梨氏は、「ホキ美術館」が住宅街に接するスケールの大きな美術館であり,周辺環境への配慮はどうなのかという一部の評価に対して,もともと周辺地域は売れない住宅街であり,美術館ができることで,直近の周辺から順番に宅地が売れて行ったという事実があること,長大なキャンチレバーも周辺への風を遮らないための方策として考えられており,駅前利用者の増大による経済効果などがあることといったビルバオのグッケンハイムのような効果があることなどをご説明いただきました.
又大谷氏は有名な自邸をつくられたことで,それまで6ミリの目地をどのように回すかということにこだわっていたけど,実はPCが精度の悪いものであり,写真では表現しきれないものがあり,人間として大事なものというのは,体験しなくては分からないことに気がついたと語られました.
建築に携わる人間として「コンテクスト」と「体験」というものの重要性という話をうかがえたのと同時に,それぞれの語り口を聞いていると,典型的な関西人である私としては,山梨氏が関西人で大谷氏が関東人ではないかという錯覚に陥りそうになりました。しかし、実際はその反対の立地でお仕事をされているということを考慮すると,日建設計というのは、東京と大阪という二項対立の形式でできている組織ではなく,社会が求めているものの変化に全体でしなやかに対応し,山梨氏や大谷氏のような個性を光らせることができる「粋」で「シュッとした」ハイブリッドな組織に成長しているという印象を受けた,有意義な講演会となりました.(山﨑康弘)