第105回本多友常氏(和歌山大学教授) 広岡敏行氏 岩田章吾氏
タイトル |
「継承という名の新たな創造行為」<柔らかい呪縛と拡散の系譜> |
日時 |
2013年2月1日(金)18:30~20:30 |
会場 |
こうべまちづくり会館 2階ホール |
第105回アーキテクツサロン「建築家の系譜シリーズ」の第7弾として,和歌山大学教授の本多友常氏をお招きして,「継承という名の新たな創造行為」<柔らかい呪縛と拡散の系譜>というテーマで講演いただきました.
第一部ではご自身の作品写真を提示していただきながら建築に対する思いを語っていただき,第二部では竹中工務店時代の後輩にあたるTHAA代表の広岡敏行氏と武庫川女子大学教授の岩田章吾氏のお二人を交えてのトークセッションを行いました.
冒頭,ゼネコンの設計施工一貫体制と設計事務所の設計・監理と施工の分離体制について述べられ,そこに竹中工務店時代と独立後の違いがあることを示唆されました。そのような設計施工一貫体制のなかでも,竹中工務店では出江寛氏,永田祐三氏や狩野忠正氏といった独立後もアーキテクトとして活躍される方や教育者として教鞭を振るう方が数多く輩出されているという系譜を提示されるところから第一部ははじまり,その後,自らの創造行為について語られました.
当初はモダニズムとしての作品性を求めて建築をつくっておられたが,AAスクール時代に研究されていた世界各地の土着的な住居の研究がご自身の根底あったものに回帰され,自然発生的建築への好奇心が強くなっていかれて,「作品」よりも背景になるような,公共性,開放性のある「設計事例」を造るというように少しずつ方向転換されていかれました.
また,和歌山という土地柄から木造建築や植栽を多く建築に取り入れ,大学の研究の一環として高野口小学校の保存事例に長期的に携わることなどを通して,「作品」を造らなければいけないということとは異なる見方をしなければならないと考えられるようになり,後世に建物を残し,それ自体が自立して,背景として存在するという社会性が建築には求められると述べられました.
少し難解であった本多氏のことばを広岡氏,岩田氏が自らの思いを述べられることで,第二部ではさらに多くのことばを引き出していただき,また本多氏のスタンスが確固たるものだということがわってきました.
建築家として自分のやりたいこととは異なることを無理してやらなければいけないというスターシステムに対して違和感を持ちながら,理屈を追求し,堂々巡りをしてしまうその行為のどこかに活路があると述べられ,そこには単純に設計と施工の境目に宿る作家性というものを追求するのではく,ゼネコンの一貫体制にみられるような個のものではない公共性がこの時代には求められているのではないかと提案されているように感じました.
そして,そのためには時代に寄り添い創り続けていくことが必要だとも.
人それぞれの立場によっていろいろな解釈が可能な,自らを振り返って考えるための機会を与えていただけた有意義な講演会となりました.